おはなし
SF・ファンタジーのお話
ゆめあるオリジナルのSF・ファンタジーのお話。
ばあちゃんのまほう
第1回 SF・ファンタジーのお話投稿コンテスト最優秀作品
- 文:貞丈
- 絵:キリンコ
本文
「こまった事があったらおばあちゃんに相談しなさい」
ある日のばんご飯の後、とつ然かあさんが言う。
「どうして?」
「だってそりゃあ、おばあちゃんは〝まほう使い〟だもの」
そうなのか、ボクのばあちゃんは〝まほう使い〟だったのか! それならさっそく相談しないと。
ボクはつくえの前にすわって食後のお茶を飲んでいたばあちゃんに話しかけた。
「ばあちゃん、あのね、明日ね、学校でテストがあるんだけど、なんとかいい点とれないかな?」
「ほうほう、なるほどね」
するとばあちゃんは、ゆっくりとボクの頭の上に手を置くと、何かすごく小さな声でもにょもにょとじゅ文をとなえ始めた。
「よし、これでいい。あとはなコウタ、部屋に戻って九時まで勉強しな。それからしっかりとねるんだ。そうすれば、明日のテストはバッチリさ」
「うん、ありがとうばあちゃん!」
ボクはすぐに部屋に戻ってばあちゃんの言った通りにした。そしたら……
「ばあちゃん、ばあちゃん! ボク、テストで100点取れたよ!」
ランドセルからテスト用紙を取り出してボクはばあちゃんにほう告した。
「そうかいそうかい、それはがんばったねえ」
そう言うとばあちゃんはニッコリとほほえんでボクの頭をゆっくりとなでてくれた。
「うん!」
まほうの手になでられて、ボクはさらにうれしくなった。
「あ、ばあちゃん、あのね、今度の日曜日、みんなと自転車で遊びに行くんだけど、雨がふったらダメなんだ。どうにかならないかな?」
「ほうほう、なるほどね」
するとばあちゃんは、スッと立ち上がると、タンスの中から糸と布を取り出してから、ボクの方へともどってきた。
「よし。ほれ、コウタ、これでいっしょに〝てるてるボウズ〟を作ろうか」
「〝てるてるボウズ〟?」
「そう、お日様のお使い人形さ。心をこめて作れば、コイツがお日様にたのんでくれて、お願いした日は必ず、一日中日の照る、良い天気にしてくれるんだよ」
「そりゃすごいや! ねえ、どうやって作るの?」
「よしよし」
ボクは一生けん命、ばあちゃんといっしょに〝てるてるボウズ〟を作った。そしたら……
「うわー、すごく良い天気だよ!」
「そうかいそうかい、それは良かったねえ」
「ばあちゃん、ありがとう! 行って来ます!」
ボクはさっそうと家を出ると、ばあちゃんにお礼を言ってから待ち合わせの場所へと自転車を走らせた。
(へへ! やっぱりボクのばあちゃんは〝まほう使い〟なんだ!)
それからボクは、ことあるごとにばあちゃんに相談する様になった。
「ばあちゃん、あのね、ボク、ほしいゲームがあるんだけど」
「ほうほう、なるほどね。よし、それなら、次と、その次、さらにその次の学校でのテストをがんばりな。いい点を取れればお父さんがきっと買ってくれるさ」
「本当に?! うん、ばあちゃん、ボク、ばあちゃんの言う通りがんばるよ!」
「ばあちゃん、あのね、ボクの親友がカゼをひいちゃったんだけど……」
「ほうほう、なるほどね。よし、それなら、このお茶をその子のところに持っていっておやり。それと、あったかくして飲むようにって伝えるんだよ」
「わかった、今からすぐに持って行くよ! ばあちゃん、ありがとう!」
「ばあちゃん、あのね、クラスでかってるカメの元気がないんだ。どうしよう」
「カメは今、どこでどうしてるんだい?」
「教室のすみの、そうじ用具入れの横にある、たなの上の水そうに居るけど……」
「ほうほう、なるほどね。よし、それじゃあ、その水そうを日の当たるまどのそばに置いてやりな。そうすりゃ、きっと元気になるよ」
「そっか! それなら明日、かならずそうするよ!」
そして、ばあちゃんの言ったことは全部が全部、本当になった。
当たり前だ。ボクのばあちゃんは〝まほう使い〟なんだから!
ある日、ばあちゃんが病院へ行ったまま帰ってこなくなった。
かあさんに聞いたら、ばあちゃんは病院へずっととまらなきゃいけなくなったらしい。
(ボクがばあちゃんにまほうを使わせすぎたせいだ……!)
ボクはすぐに自転車にまたがると、ばあちゃんのいる病院へと走った。
「ばあちゃん、ゴメン! ボクのせいで……!」
ばあちゃんは病院のベッドの上で、布団をかぶりながら座っていた。
「ほうほう、なるほどね。コウタ、お前、わしがお前のためにまほうをたくさん使ったから元気がなくなった、と思っているんだろ?」
「え!? あ、ばあちゃん、ダメだよ! まほうを使わないで! ボクの心を読まないで!」
「…………。いいかい、コウタ。ばあちゃんはね、お前のせいで元気が無くなったんじゃないんだよ」
「じゃあどうして……」
「ばあちゃんはね、天国のじいちゃんがさみしいって言うから、まほうを使ってこれから会いにいくところなんだ」
「じいちゃんが?」
「そうさ。まほうを使えば、天国のじいちゃんとも話しが出来るんだ。だからね……」
「でも、ばあちゃんが天国に行っちゃったら、ボクがもうばあちゃんと話が出来ないじゃないか!」
「…………」
「ばあちゃん、ボクは? ボクもばあちゃんみたいな〝まほう使い〟になりたい!」
「………………。ほうほう、なるほどね。よし、それなら、コウタ、お前、これからたくさんたくさん勉強しな。そうすればいつかきっと、お前も何だって出来る〝まほう使い〟になれる」
「本当に?」
「ああ。ばあちゃんのまほうはぜったいさ」
そう言って、ばあちゃんはボクの頭をなでてくれる。その手の平からは、ばあちゃんのまほうがボクにそそがれているにちがいなかった。
そうでなければ、そうでなければ、こんなにあたたかいはずは無いと思った。
しばらくして、ばあちゃんはじいちゃんのところへと出かけて行った。
おそう式では、かあさんも、とうさんも、当然、ボクも泣いた。おそう式に来た人全員が泣いていた。
きっとこれもばあちゃんのまほうなんだと思う。さすがばあちゃんだ。
かそうばのえんとつから、ケムリがもくもくと空へとのぼる。
そのケムリを見つめながら、ぼくはいつかきっとりっぱな〝まほう使い〟になるぞ、とばあちゃんへちかった。
「がんばりな」
いっしゅん、今のぼくにはまだ聞こえるはずのないばあちゃんの声が、小さくボクの耳に聞こえた気がした。
「うん」
ケムリの向こうでは、いつかばあちゃんといっしょに作った〝てるてるボウズ〟の頭の様に丸い太陽が、青い空の中キラキラとかがやいていた。
マイナス思考発電型ロボット
第1回 SF・ファンタジーのお話投稿コンテスト優秀作品
- 文:あぜちようせい
- 絵:SAKAMOTTI
本文
マイナス思考発電型ロボットが世に出た期間は短かった。
しらない人もいるかもしれない。
黒木青人の家にも二度ばかり訪ねてきたことがあった。
「おれはだめな人間だ………」
黒木はいま、会社から不採用通知をうけとったところだった。部屋には過去の不採用通知が束になっておかれていた。
こんどもだめだろうと思っていたら、あんのじょうそのとおりになってしまった。
玄関のドアをノックするものがあった。ノックはいつまでもつづいた。
彼はドアをあけた。
「こんにちは」
ひと目みてロボットとわかる整った顔立ちの男があいさつをした。最近、いろんなロボットがまちなかを歩きまわっていた。
「じつはわたし、あなたのマイナス思考をとりいれて、それをエネルギーに変えて動くロボットなのです」
「そんなロボットがいたのか」
「いまでは主流になりつつあります。なにせこの世の中、マイナス思考の人間であふれていますからね」
「わるかったな。どうせぼくは、役にたたないだめな人間さ」
相手は、えもいえない快楽にみまわれたように、ゾクッと身をふるわした。
「おお。そのマイナス思考こそ、わたしの命のみなもと。もっと、もっとください!」
「もう、かえってくれ」
「またよらせていただいて、いいですか?」
「かってにすればいいだろう」
「ありがとうございます」
マイナス思考発電型ロボットウラは、黒木のところからたちさると、まだ物足りない様子で歩き出した。
いまもらったエネルギーだけでは、フル充電とはいかなかった。
ウラが歩き出すとすぐに、どこかからマイナス思考が伝わってきた。かれは、それに引きよせられるように、足をはやめた。
一週間後ふたたび、充電の必要をおぼえたウラは、あの黒木の住まいをたずねた。
「やあ、きたね」
期待していたのとはうらはらな、いやに元気な黒木が玄関にあらわれた。
「なんの役にもたたない自分だとおもいこんでいたぼくだったが、きみにエネルギーを供給することができると思うと、なんだかやる気がでてきてね、そんな気持ちで就職をもとめて会社をおとずれたら、みごと採用されたよ。なにもかもきみのおかげだ」
彼から感謝の握手をされたウラはきゅうにめまいにおそわれた。
そのままふらつく足取りでかれは、これまでマイナスエネルギーをもらった家々をだずねてまわった。
しかし、どの家でも、あらわれたのは黒木同様、前向きで、積極的なプラス思考の人間ばかりだった。
「あなたのおかげですわ」
やっぱり、ウラの役にたてたことが、かれらにやる気をおこさせたのだった。
ウラが残りのエネルギーを使い果たして路上に倒れたのは、それからまもなくのことだった。
そんなわけでいまは、マイナス思考発電型ロボットはまちから姿をけし、かわりにプラス思考発電型ロボットがあらわれはじめたという。
おじさんのゆめ
第1回 SF・ファンタジーのお話投稿コンテスト優秀作品
- 文:あやもとゆかり
- 絵:涼
本文
ぼくのおじさんはいつも、イスにすわってニコニコしている。
イスにすわったままで、おじさん一人では立ち上がれない。
だけど、イスのりょうがわについている自てん車のタイヤのようなわっかを手のひらでおして、おじさん一人でどこへでも行く。「車いす」っていうんだって。
ごはんを食べるときはぼくより早くテーブルについてるし、夜のトイレだって一人で行ける。
じどうしゃも、一人でのって一人でうんてんする。パパのじどうしゃとちがって、車いすのままのれるようになっているじどうしゃだけど。
パパやママがいそがしいときは、おじさんがその車で、ぼくをようちえんまでおくりむかえしてくれたんだ。
ニコニコしながらね。
あるとき、ぼくはおじさんに聞いた。
「おじさん、どうして立てないの?」
「こうつうじこで大けがをして、歩けなくなったんだよ」
おじさんはぼくの頭を、ニコニコしながらなでる。
「だけどもうすぐ、車いすをつかわなくてもよくなるんだ」
ぼくはなんかいも「どうして?」「どうするの?」ときいたけど、おじさんはニコニコするだけでなにもおしえてくれなかった。
しばらくすると、ぼくがかぜをひいてもいないのにパパは、小学校を休ませた。
パパもママもかいしゃを休んで、ぼくをつれてロケットうちあげセンターへつれていった。
「あぁ、ぶじにあがるかしら。わたし、見ていられないわ」
「だいじょうぶさ、あいつのゆめがかなうんだ、しっかり見まもってやろう」
ずっととおくに、ロケットがぎんいろにかがやいて立っている。
サッカー場のスタンドのようなけんぶつ席には、パパやママのようにしんぱいそうにロケットを見つめているかぞくや、そうがんきょうやカメラをかまえている人でいっぱいだった。
「さあ、いよいようちあげです!」
アナウンサーがテレビカメラにむかって、こうふんしながらしゃべっている。
「ねぇパパ、ほんとうにあのロケットにおじさんがのってるの?」
ぼくは、おじさんがうちゅうひこうしになったなんて、まだしんじられない。
「ああ。じこで歩けなくなってもあいつは、自分のゆめをあきらめなかったんだ」
「ゆめ?」
「そうさ。あいつ小学校の作文で、『しょうらいはうちゅうひこうしになりたい』って書いたくらいなんだぞ」
やがて、カウントダウンがはじまった。
ぼくもみんなといっしょに、「5、4、3、2、1、」と声をはりあげた。
おじさんののったロケットが白いけむりをもくもくとはきながらのぼっていくと、ぼくはおもわず「やったー」とばんざいした。
かがやきながらロケットがまっさおな空のまんなかへ消えていくまで、ぼくはずっと手をふりつづけてた。
それからうちゅうステーションについたおじさんは、ぼくやパパ・ママへビデオでおたよりをくれた。
『ぼくは今、うちゅうにきてまーす』
おじさんはうちゅうステーションの中でうかびながら、ぼくらに手をふっていた。
『ここではぼくでも、歩けるよー』
おじさんはむじゅうりょくでうかんだまま足をぎこちなく動かし、かべからてんじょうへぐるりといっかいてんしながら、歩いてみせた。
・・・いつもよりとってもとっても、ニコニコしながら。
魔女のマニキュア
第1回 SF・ファンタジーのお話投稿コンテスト優秀作品
- 文:Yuka
本文
ある雨の日のことでした。
サクラは買ってもらったばかりの、水色のカサをさして、家にむかって歩いていました。
ポツ、ポツ、ポツ……
カサにあたる雨の音をききながら、歩いているときでした。黒い服をきたおばあさんが、カサもささずに道でなにかひろいあつめているのを見つけました。
赤や青、黄色やミドリの小さなビンや大きなビンが、坂道をコロコロところがっているのです。
サクラはいそいでおばあさんのところへいくと、ひろうのを手伝いました。
「はい、おばあさん」
「ありがとう」
おばあさんはガラガラの声で言いました。サクラはおばあさんのかおを見てびっくりしました。大きくて先のとがったはなと耳。絵本でみた魔女(まじょ)とそっくりだったからです。
「ひろってくれて、ありがとう。お礼に、これをあげよう」
おばあさんはサクラの手の上に、小さなビンと紙をのせました。そのビンはとてもきれいでした。中にはトウメイなえきが入っていて、にじ色に光るのです。
「これは、なに?」
サクラはききました。
「これ“魔女(まじょ)のマニキュア”というんだよ。この紙にかいてあることをよくよんで、だいじにつかうんだよ」
そういって、おばあさんは雨の中をあるいていきました。
「でも、これどうやってつかうの?…あれ?」
サクラがふりかえると、もうそこにはおばあさんはいませんでした。
家につくと、サクラはまっさきに、おばあさんからもらった紙をよみました。それは、マニキュアのつかいかたがかいてありました。
『なんでもかなう魔女(まじょ)のマニキュア。つめにぬって、ねがいをいって指をふるだけで、あなたのねがいがかないます。』
サクラはマニキュアをぬってみることにしました。
「これでいいのかな?」
しばらく、サクラは手を見ていました。
「ねがいごと、なにがいいかな?」
サクラはかんがえました。
学校でさんすうのしゅくだいが出ていたことを思い出し、ランドセルからノートと教科書をとりだしました。
「…しゅくだいを、ぜんぶおわらせてください!」
ねがいをいったあと、サクラはえいっと指をいちどふりました。すると、指先からキラキラしたこなが出て、それがふりかかると、あっという間にしゅくだいはおわっていました。
「すごい!」
サクラは手をたたいてよろこびました。
「あれ?」
その時、手を見ると、ぬったはずのマニキュアがきえてなくなっていたのです。
「そっか。ねがいがかなうと、マニキュアきえちゃうんだ」
サクラはもっとためしてみたくて、もう一度ぬりなおしました。
「こんどはなにがいいかな?そうだ!」
サクラは自分にむかって指をふりました。
「ネコにしてください」
キラキラした光がサクラにふりかかると、サクラはみるみるうちに小さくなって、ネコになっていきました。
ネコになってみると、今まで見ていたものがまるでちがってみえます。ランドセルだって、手をとおすとつぶされてしまいそうなくらい大きくて、ノートも教科書もなにもかも大きく見えるのです。
サクラはマニキュアのビンを口にくわえると、お母さんにはだまってまどからとび出していきました。
夜の町をネコになって歩くのははじめてです。高いへいをとびこえて、近所の家のやねをわたり歩きます。
「ネコって、こんな高いところから町を見てたのね」
サクラはとおくに見える、町の光を見ました。キラキラ光る町の明かりは、ビーズをこぼしてしまったようにきれいでした。
「あっ」
やねの上を歩いているときです。サクラは、自分の前足が人間の手にもどっていることに気がつきました。そして、あっという間にもとのすがたにもどってしまったのです。
やねの上にすわったまま、サクラはおりられなくなってしまいました。
「どうしよう」
もっていたビンを見ると、中のマニキュアはあと少しになっていました。
サクラは考えました。どうせなくなってしまうのなら、大きなねがいをかなえたいと思いました。
そして、すべてのマニキュアをつめにぬって、夜空を見ました。
「空がとびたい」
サクラは指をふりました。すると、背中がムズムズして、びっくりして背中を見ると、パジャマをつきやぶって、サクラをつつみこんでしまうほどの、大きな羽がはえてきたのです。
サクラはりょう手をひろげて、やねの上からとびたちました。
大きな羽でいっしょうけんめいはばたいて、どんどん高く空にのぼっていきます。
「風がきもちいい」
満月の光をあびながら、サクラは空高くとんでいきます。はるか下に見える町もキラキラ光っています。
高い空から一気におちて、森の上をギリギリでとび、その風でたくさんの木をゆらします。ねむっていたカラスもびっくりして、カーカーとさわいでいます。
そして、また空高くとんでいきます。こんどは雲の上です。雲の上はとてもしずかで、雲がまるで白い海のように見えるのです。サクラのすがたは、満月の光にてらされて雲にかげをつくります。羽の生えたかげを見るのは、とてもフシギなきもちでした。
その時でした。背中の羽がまたムズムズしてきて、背中を見ると、羽はうすくなってきえはじめているのです。
「まほうが、きえちゃう!」
サクラは雲の海にとびこんで、高い空からいそいで家にむかってとびました。このまま羽がきえてしまったら、サクラは空から落ちてしまいます。サクラはスピードをはやくしました。
「あっ、わたしの家だ!」
目の前にサクラの家が見えてきました。サクラはいそいでへやのまどから入り、お母さんに見つからないよう、ベッドにもぐりこみました。ベッドに入ったとたん、サクラはとてもねむたくなりました。たぶん、たくさんとんでつかれたのでしょう。サクラは大きな羽をふとんの中に入れてねむりました。
気がつくと、外は朝になっていました。
サクラはびっくりして目をさますと、背中には大きな羽は生えていません。もちろん、パジャマもやぶれていません。
「夢だったのかな?」
そう思った時、まどのところにある、あのマニキュアのビンを見てサクラはうれしくなりました。
「夢じゃなかったんだ!」
空っぽになったビンがそのしょうこでした。
その日も朝から雨でした。学校へ行くとちゅう、サクラはどうしてもあのマニキュアがほしくて、あのおばあさんとあった場所にいきました。もしかしたらあえるかもしれないと思ったのです。でも、おばあさんはどこにもいません。
その時で。ポケットの中に入れてあったビンが、うごいたようなきがして、サクラはいそいでポケットから出しました。
「あっ」
外に出すと、ビンといっしょにもらった紙がキラキラ光って、こなになってきえてしまったのです。そして、ビンも光るすなになってきえてしまいました。
「どうしよう。なくなっちゃった」
サクラはさみしくなりました。ビンだけでもたからものにしておきたかったのに、それもきえてしまったからです。サクラは、しずかにあるきはじめました。
ふと空を見上げると、雨がやんで、にじがかかっていることに気づきました。それは、マニキュアの色と同じでした。もしかしたら、魔女(まじょ)のマニキュアが、さいごのまほうを見せてくれたのかもしれないと、サクラは思いました。
おわり