おはなし

心優しいヤンキー君

ヤンキーは悪いやつばかりではない。
心温まる優しいお話です。

くわしくみる

第1回 優しいお話投稿コンテスト優秀作品

  • 文:宇田順子
  • 声:とうぷ♥(koebu)

本文

 何年も前、息子の通う中学校は荒れていた。どのクラスにも何人かのヤンキー生徒がいて、
トイレのドアを壊したり、水浸しにしたり、くずかごの紙に火をつけたり、夜中に駅前にたむろして
タバコをふかしたりと、問題行動ばかり起こしていた。学校側は指導を強化し、度々父母会を開いて話し合った。そんなある日全校父母会に出席した私は、息子に話して聞かせ、
「先生たちもご苦労だわねえ。いまに新聞種になるようなことを起こすんじゃないかと心配してらしたわ?」と、言った。すると意外にも息子は首を振った。
「あいつらばかりが悪いわけじゅあないさ。優しいところもいっぱいある奴らなんだよ。死んだハトを埋めて、花を飾ってやったりしてさ」
「じゃあ、なんで悪さをするのかしら?・・・」
「先生は成績のいい生徒ばかり誉めるからさ。自分たちも認めてもらいたいんじゃないかなあ」
 次の日私は、息子が忘れて行った弁当を教室へ届けにいった。始業のベルがなったので、教室をのぞいてみたが息子の姿は無かった。どうしようと一瞬思ったが。一人、廊下側の窓枠に乗って遊んでいたヤンキー君にドギマギしながら声をかけた。
「あの宇田の母ですけど、息子がお弁当を忘れて行ったので、渡してもらえます」
 思いがけず彼は少年らしい快活な声で、
「いいですよ。さっき先生に呼ばれて職員室にいったんです。すぐ戻ってくると思います」
「なにか、悪いことでも・・・」
「そんなことないですよ。僕たちとは違うから・・・・」
 彼はおかしそうに笑いながら言った。髪を黄色く染めてはいたが、曇りの無い優しい眼をしていた。その夜、息子が言っていた。
「Y君ね。『君のお母さんは真っ先に僕に声をかけてくれたんだ』って、喜んでいたよ」と。

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