- 文:東方明珠
- 声:川本知枝
- 絵:ミューズワーク
- 原作:新美南吉
本文
むかしむかしの おはなしです。
あるところに、ひとりぼっちの こぎつねが いました。
なまえを ごん といいました。
あるひのこと、
ひょうじゅう という わかものが
かわに あみを しかけているのを みつけました。
かわのなかに きらりと ひかるものが あります。
「うなぎが かかっている!」
ごんは いたずらしたくて うずうず しました。
ひょうじゅうが うしろを むいたすきに、
えいやっ、と、うなぎを ぜんぶ にがしてしまいます。
ごんは にげました。
ひょうじゅうが、おいかけてくると おもったからです。
でも、
「びょうきの おっかさんに あげる うなぎだったのに」
ひょうじゅうは ないていました。
「なんだって?」
いつもは たのしい いたずらが、
きょうは ぜんぜん たのしく なくなりました。
しばらくして、ひょうじゅうの おっかさんが しんだと ききました。
「ひょうじゅうも、おいらと おんなじ、ひとりぼっちに なったのか」
ごんの むねは しくしく いたみました。
「あんないたずら、しなきゃよかったなあ」
ごんは やまで くりを ひろい、
ひょうじゅうの いえへ とどけました。
だれにも きづかれないように こっそりと うらぐちに おいてかえりました。
つぎのひも、そのつぎのひも、ごんは くりを とどけます。
ときには、おおきな まつたけも つんで いきました。
そんなあるひ、
ごんは、ひょうじゅうに みつかってしまいました。
「あいつは、うなぎを だいなしにした、ごんぎつねだな」
ひょうじゅうは てっぽうを かまえました。
「きっと また いたずらをしに きたのに ちがいない」
ひょうじゅうは どん、と てっぽうを うちました。
ごんは ばたりと たおれます。
ごんの かかえていた くりが、ばらばらと じめんに ころがりました。
ひょうじゅうは びっくりして さけびました。
「ごん、おまえだったのか。いつも くりを くれたのは」
ごんは ぐったりしながら うなずきます。
ごんの あしからは、まっかな ちが ながれていました。