おはなし
トイレの花子さん
クラスで話題になっていた「トイレの花子さん」のうわさ…
しかし、その正体は意外な人でした。
第2回 少し怖い妖怪・おばけのお話コンテストの最優秀作品
- 文:袴田奈月
- 声:とまこ。(koebu)
- 絵:クロッキー
- アニメ:インターン生
本文
ねえみんな、こんな話、しってる?
「学校のトイレに、花子さんがいる。」
学校の授業が終わって、時計の針が、4時44分をさしたとき、入口から3つ目のトイレのドアを、とんとんと3回、ノックする。そうして「花子さん、こんにちわ」っていうとね、「はあい」ってこえがして 、花子さんの白い手がにゅうとのびてくる。そうして、くらいべんきのおくのセカイに、引きずりこまれてしまうって、ウワサ。
ユキちゃんのクラスでは、今、その話でもちきりなんだ。やんちゃなマサオくんがね、ウワサ通りに、「花子さんをみた」っていうんだから。 いいや、実際には、『はあい』という声を聞いた、だけなんだけど。
「ばっかだなあ、なんで、すっ飛んでにげてきちゃったんだよ。こえを聞いただけじゃ、わかんないじゃんか。やっぱり、カオを見なきゃ」れいせいなシンジくんがいうと、マサオくんは「とんでもない!」と言って、「だって、手が伸びてきたら、つかまっちゃうじゃんか!そんなの、にげなきゃ、コロサレるにきまってんだろ」とひっしだ。じっさい、マサオくんはクラスで一番かけっこがはやい。「おれだからこそ、にげきれだんだ」と、むねをはる。
「けどさ、花子さんて、一体だれ?」ユキちゃんがそぼくなギモンをなげると、どくしょ家のミカちゃんが、「30年前に、この学校のせいとだった女の子よ。トイレでジコにあって、しんだの。本にかいてあったわ」そんなことも、しらないのと鼻をならす。
「とにかく、一度やってみようぜ。今日のほうかご、みんなでさ」そう決めたみんなは、 おそるおそる、でもなんだかすこしわくわくしていた。
やくそくどおりその日のほうかご、4時44分、4人は3番目の女子トイレのとびらの前にれつを作っている。花子さんに会うために。
トントントン――マサオくんが3回、ノックする。かれは、そうしながら、もう走り出すかまえをしている。だけど、それをわらうよゆうなんか、ほかの3人にもない。
そうして、おたがいに手をつなぎあった4人はこえを合わせて、いった。
「花子さん。こんにちわ」
「はあい」
返事が返ってくるのを聞くよりも にげだすほうが早かった気がする。4人は手をつなぎ合ったまま、いっせいにかけだしたけれど、そのうちに、ミカちゃんの足がもたれてころんでしまった。そうして、なだれのように、ほかの三人もつられてバランスをくずしてたおれていく―――その後ろから、花子さんの白い手がにゅうと伸びて―――。
「ああ、あぶないわ。かわいそうに。痛かったでしょう」 花子さんはやさしい声で言うと、その白いうでで4人をやさしくだきおこしてくれた。
その周りには、4人がにげて走ってけちらした、デッキブラシや水に入ったバケツがちらばっている。花子さんの大切な仕事道具だ。
「あなたが、花子さん?」ユキちゃんがおそるおそるたずねる。
「そうよ 花山花子って言うの。 この学校の、おそうじのおばさんをしています。――いつもこの時間は、トイレそうじをしていることが多いわね」
ユキちゃんたちがそうぞうしていたより大人な、「花子さん」は、いきいきとして、教えてくれた。
「なんだあ」 4人とも、ほっと一息、少しだけざんねんなキモチで、へなへなと、花子さんがそうじしたてのピカピカのゆかにすわりこむ。
「じゃあ、トイレの花子さんのうわさはうそだったのね。30年前、ジコにあってしんだとか」本を何よりもしんじているミカちゃんががっかりしていると
「あらそれはわからないわ」
ちょうど自分がみがいているぴかぴかのトイレのゆかみたいに、 花子さんの目がいたずらっぽく光った。
「30年前は私もあなたたちと同じ小学生だったわ。 それに、そのころのトイレは「ぼっとん」だったから、夜暗いときになんかいくと、足をすべらしてトイレの穴に落ちるんじゃないかしらって、とても怖かったものよ」
「じゃあ、うそじゃないかもしれない!」ミカちゃんはうれしそうだ。
「でも、『トイレの花子さん』はこわいけど、『花子おばさん』は、こわくないね!!」
シンジくんが言うと、花子おばさんは、また目をキラキラさせて、笑った。「おばさん、はよけいね」と言って。
それからというものユキちゃんやクラスのみんなは、学校の授業が終わっておうちに帰る前、必ずトイレに立ちよる。花子さんに会うために。キラキラ輝く、あのえがおと元気なこえにあうために。
「花子さん、こんにちわ!」
「はあい」
「いつもきれいにしてくれて、ありがとう!」
「みんな、いつもきれいにつかってくれて、ありがとう」
そう。「花子さん」のことが大好きになった子供たちもセンセイも、前よりもトイレや学校にあるいろんなものたちを、大切に使うようになった。だってそのほうが、『花子さん』もみんなも、きっとすてきな気持ちになれるだろうから。