おはなし

猫山の話

仲の良いネコがある日、いなくなりました。
会いに行った先で起きた怖い出来事とは?
少し怖いお話なので、小学校低学年以上を推奨します。

くわしくみる

  • 文:東方明珠
  • 声:川本知枝
  • 絵:みのもまりか
  • 原作:山口県に伝わる民話

本文

これは 世にも ふしぎな おはなしです。
あるところに まずしい むすめが いました。
むすめは いじわるな おかみさんの やしきで はたらいて いました。
「きょうも たくさん しかられたわ」

にわで ないていると ねこが すりよって きました。
「みけ。なぐさめて くれるのね」
にわに すみついた みけねこ だけが むすめの 友だち でした。
「ごはんを おたべ」
まい日 じぶんの ごはんを わけて あげました。

ある日、ねこが いなくなって しまいました。
どんなに さがしても 見つかりません。

そこへ たびの おぼうさんが やってきて、おしえて くれました。
「おまえさんの ねこは 九しゅうの いなばの 山に ある ねこ山に いるだろう」
むすめは おかみさんに やすみを もらい、ねこを さがしに 行きました。

なん日目かの 夕方、すすきが ざわざわ ゆれる 中に 大きな いえを 見つけました。
「ごめんください。このあたりは ねこ山ですか」
中からは 目つきの するどい 女が 出てきました。
「ねこ山は まだ 先ですよ。こん夜は とまって いきなさい」
むすめは ひとばん とめて もらいました。

ま夜中、となりの へやから ひそひそ 声が しました。
「あの むすめ、ほっぺが ぷくぷくして うまそうじゃ」
「にて やろうか、やいて やろうか」
なんの はなし でしょうか。
しょうじの あなから のぞいて みました。
そこには、人の 体に ねこの かおを した 化けねこたちが たくさん いました。
むすめを たべる そうだんを していたのです。

「どうしよう」
むすめは ぶるぶる ふるえました。
すると、はんたいがわの 戸が すーっと ひらきました。
いっぴきの 化けねこが 足音を 立てずに 入ってきます。
「もう だめだわ」
けれども、化けねこは なつかしい ねこの 声で なきました。
「……みけ?」
化けねこは 目を ほそめ、こくりと うなずきました。
「ここは 年を とった ねこが あつまる ばしょです。
 わたしは もう 帰ることが できませんが、あなたは お帰りなさい」
ねこは 白い つつみを くれました。
「これを 見せれば 化けねこは おそって きません」

むすめは おれいを 言って にげました。
げんかんの 外には びかびか 光る 目が たくさん まちかまえて いました。
むすめは 白い つつみを かざしました。
すると、化けねこたちは むすめの まわりに ぐるりと 円を えがいたまま うごかなく なりました。

むすめは ぶじに やしきへ もどってきました。
つつみを あけてみると、こわそうな 犬の 絵が 出てきました。
犬は 本ものの こばんを くわえていました。

それを 見た いじわるな おかみさんは うらやましくて たまりません。
「あたしも こばんを もらいに 行ってくるわ」
ねこ山の ばしょを むりやり きき出し、でかけて 行きました。

おかみさんは 夜ふけ、ねこ山に つきました。
化けねこ たちが 目を ぎらぎら させて ちかづいて きます。
「はらが へったな」
「にて やろうか、やいて やろうか」
耳は さけ、口は くわっと ひらき よだれを たらして います。
おかみさんが よろけた しゅんかん、化けねこたちが いっせいに とびかかって きました。
おかみさんは やしきに もどっては きませんでした。

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