おはなし
夜中のおとむらい
お侍さんが、自分のお葬式を見てしまうという怖いお話。
少し怖いお話なので、小学校低学年以上を推奨します。
- 文:東方明珠
- 声:川本知枝
- 絵:紺島
- 原作:山形県に伝わる民話
本文
これは 世にも ふしぎな おはなしです。
山形の 鶴岡(つるおか)に 大場宇平(おおばうへい) という ぶしが いました。
ある夜、大場宇平は やなぎの ゆれる おほりばたを あるいて いました。
向こうから ひたひたと ぎょうれつが ちかづいて きます。
「はて。こんな ま夜中に なんだろう」
みんな 白い きものを きて、先頭の 人は 高ちょうちんを かかげています。
白い ぬのを かぶせた やりを もっている 人も いました。
「あれは ぶしの おとむらい じゃないか。だれかが しんだ なんて 知らないぞ」
大場宇平は ぎょうれつの 一人に たずねて みました。
「これは どなたの おとむらいかな」
「お馬回り 二百石、大場宇平さまの おとむらいです」
「なに。わたしの?」
ぎょうれつは ふたたび むごんで あるき 出しました。
それは きみょうな くらい しずかで 足音 一つ しませんでした。
大場宇平は ぞーっと しました。
足を もつれさせ やしきへ 帰りました。
やしきの ものは ねしずまって いました。
しかし、おいなりさまを まつった 門の 前には 送り火を たいた あとが ありました。
「わたしの おとむらいを するとは どういうことだ」
「なんの ことでしょうか」
だれも おとむらいの ことは 知りません。
「ゆめでも 見たの だろうか」
大場宇平は くびを かしげました。
それから 少しして 大場宇平は びょうきに なりました。
そして あるばん どろぼうが しのびこみ、大場宇平を きりころして しまいました。
大場宇平の おとむらいが しめやかに とりおこなわれました。
ぎょうれつが おほりばたに さしかかったとき、白い きつねが よこぎりました。
「きっと おいなりさまが ふこうを 知らせて くれたのだ」
いえの ものは そう言って なみだを ながしました。