おはなし
アマビエのお話
日本に古くから伝わる豊作や疫病などの予言をする半人半魚の妖怪のお話。
- 文:東方明珠
- 声:結城ハイネ
- 絵:木咲朝日
本文
むかしむかしの おはなしです。
えどの まちでは きみょうな びょうきが はやって いました。
せきが なんにちも つづいたり、つかれて おきあがれなくなる びょうきです。
たろうの おかあさんも ずっと せきを していました。
「ぼくが さなかを とってくる」
たろうは うみへ むかいました。
よあけ まえの うみは すみを たらしたように まっくろでした。
「おかあさんが げんきに なりますように」
そのときです。
とおくの うみの なかに あおじろい ひかりを みつけました。
「なんだろう?」
ふしぎに おもった たろうは、おとなを よんできました。
ひかりは だんだん ちかづいて きます。
ざばり。
なみを かきわけて みたことの ない いきものが あらわれました。
とりの ような くちばしに ひしがたの め、
ながい かみのけは ももいろさんごの ように あかく、からだは にじいろの うろこに おおわれています。
おびれが みっつに わかれて にんげん みたいに たちあがりました。
「わたしは アマビエ」
ぴかぴかと ひかる めが たろうを みつめました。
「わたしの すがたを えに かいて みせれば、びょうきが なおるでしょう」
「ほんとう?」
「それから、このあと ろくねんかん こめも さかなも たっぷり とれるでしょう」
アマビエは そういうと ふたたび うみへ かえって いきました。
「まさか」
おとなは はじめ しんじません でした。
しかし、たろうは アマビエの えを おかあさんに みせました。
「なんだか きぶんが いいわ」
おかあさんの せきが ぴたりと やみました。
「すごいや。みんなにも おしえて あげよう」
たろうと おかあさんは せっせと えを かいて びょうきの ひとへ とどけました。
「なおったぞ」
「げんきに なったわ」
「ぼくも アマビエの えを かこう」
「わたしも」
アマビエの えは どんどん つたわって いきました。
いつしか、おとなも こどもも みんな えを かいて いました。
びょうきは あっというまに きえて なくなりました。
それだけでは ありません。
うみへ でれば たいりょうの さかな、はたけでは どっさり たべものが とれるように なりました。
「アマビエの おかげだね」
えどの ひとびとは アマビエの えを たいせつな おまもりに しました。