おはなし
かべのしみ
ちょっぴり こわいお話「かべのしみ」です。
- 文章:東方明珠
- 朗読:梅田朱理(コトリボイス)
- 絵:中田喜久
本文
これは よにも ふしぎな おはなしです。
スズキさんは がっこうで、いつも きになっている ことが ありました。
それは、きょうしつの うしろの かべに ある しみ です。
おおきさは てのひら くらいで、いろは くろ。
えんの なかに ふたつの めのような かたまりと、
その したに みかづき がたの よごれが あります。
「なんだか ひとの かおに みえない?」
クラスの だれかが いいました。
「きもちが わるいね」
そうじの じかん、ぞうきんで こすって みました。
しかし、ぜんぜん きえません。
しろい かべの なかで ますます くっきりと うきあがって みえます。
「ずっと まえから あるので、きにしないで ください」
せんせいが いうので、あきらめるしか ありませんでした。
あるひ スズキさんは がっこうに わすれものを して、とりに いきました。
ほうかごの ろうかは うすぐらくて とても しずかです。
きょうしつの まえに くると、なかから こえが しました。
「……」
おんなの ひと でしょうか?
ぶつぶつ いっていて、ないようまでは きこえません。
「しつれいします」
とを あけると、こえは ぴたりと やみました。
きょうしつの なかには だれも いません。
「おかしいな」
くびを かしげながら わすれものを さがしました。
すると、うしろから さっきの こえが しました。
「だれ?」
ふりかえった そこに あったのは、かべの しみ です。
みかづき がたの よごれは まんげつの ように まるくなり、
ことばを はなして いたのです。
スズキさんは きょうしつを とびだし、せんせいを よんで きました。
「かべの しみが しゃべったんです」
「また しみ ですか?」
せんせいは やれやれと かたを すくめました。
そして、しみの うえから ポスターを はって くれました。
「これで みえないでしょう?」
スズキさんは ようやく ほっとしました。
しかし つぎのひ、ポスターは はがれて いたのです。
「こわいよ」
こどもたちに おねがいされて せんせいは ふたたび ポスターを はりました。
けれども、ほうかごに なると いつも はがれてしまう そうです……。