おはなし

座敷わらし

東北地方に伝わる子供の妖怪「座敷わらし」。
ざしき童子(ぼっこ)とも言われます。

くわしくみる

  • 文:東方明珠
  • 声:中川亜紀子(コトリボイス)
  • 絵:森のくじら

本文

昔々のお話です。
岩手県のある村に、旅の僧、六部がやってきました。
「一晩、泊めてください」
長者屋敷を訪ねると、長者の孫兵衛が出てきました。
「どうぞ、お寛ぎください」
孫兵衛は穏やかな老人で、六部を歓迎してくれました。

夜が更けて、奥の座敷へ案内されました。
部屋の壁には、小さな着物がいくつも掛かり、床の間には人形がびっしりと並んでいます。
布団の周りにも、手毬やでんでん太鼓など、沢山のおもちゃがありました。
「なにやら、妙な気配がする」
六部はなかなか寝付けません。
やがて、足音が近づいてきました。
「ふふふ」
「眠っているよ」
子供の声です。

薄目を開ければ、真っ白い顔に赤い着物で、おかっぱ頭の女の子が二人いました。
「こんな夜更けに遊ぶのかい?」
思わず話かけたその時です。
二人は動きを止め、そのまま、すぅっと消えてしまいました。

翌朝、目を覚ますと、六部は掛布団を下に敷いて、敷布団を掛けていました。
「不思議なことがあるものだ」
首を傾げながら、再び旅に出ました。

それから何年か過ぎ、孫兵衛は亡くなりました。
六部が久しぶりに屋敷の前を通り掛かると、中から女の子たちが出てきました。
「おまえさんたちは、この屋敷の子かい?」
すると、二人は悲しそうに言いました。
「この家はもう終わりだよ」
「隣村へ行こう」
そしてまた、すうっと姿を消してしまいました。

若い長者はケチな男でした。
「汚い六部め、あっちへ行け」
追い払われた六部は、はっと気付きました。
「あの子たちは、座敷わらしだったのだ」
座敷わらしが消えた屋敷は、みるみる貧乏になりました。
代わりに隣村の長者屋敷は、どんどん栄えていったそうです。

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